2014/09/17

 以前、三つの新しいデバイスを導入して作業環境を変更した記事を書きました。
あれから一月経ち、その間使用してみた感想について、今回はその一つ目、左手デバイスについて書いてみます。


 僕がPCを使ったデジタルイラストを描き続けてもう10年以上経ちますが、最初の1年目で右手をマウスからペンタブレットに持ち替えた以外、作業スタイルはほとんど変わっていません。
異常にコマンドオペレーションの多い3DCGの職歴を挟んでから、遊んでいた左手でのキーボードショートカット使用率が飛躍的に増え、今では作画ソフトのコマンドも可能な限りショートカットキーを使用しています。
もしもショートカットキーがなければ作画速度は倍以上にかかると断言できるほど、僕にとってキーボードショートカットは重要となり、現在はマウスカーソルでコマンドメニューにアクセスすることがほとんどなくなっています。

そこで、このショートカット―キーに伸ばす手をどうにかもう一歩スムーズにできないかと考えるようになり、導入したのが左手専用のゲーミングデバイス。
本来は、ハイレスポンスな操作を素早く行ったり、複数のキーの組み合わせや動作を簡略(マクロ)化してワンタッチで実行できるショートカットキーを集めたゲームプレイ用のデバイスです。
これにグラフィックツールのコマンドショートカットを割りあてて使用するというワザを若い世代のイラストレーターやマンガ家が取り入れているということは予てから耳にしていましたが、なかなか周囲で実用している人はおらず、既に使用していたのは榎本よしたかさん一人。そんなわけで、今回は彼に色々とアドバイス頂きました。この場を借りて感謝いたします。

さて、リリースされている製品で選択肢に入るものは意外なくらいに少なく、概ねRazer社の現役型か、Logicool社のG13Rのどちらか。
CLIPSTUDIOのCLIP社からもTab-Mate ControllerというWiiコントローラーのような手持ちデバイスは発売されていますが、評判はいまいちのようです。

というわけで、候補はRazerのTartarusとLogicoolのG13R
実際に店頭で触ってみたところ、一発でTartrusに決まりました。僕の小さめの手にすんなりと収まったというのが理由です。
キー数や機能はG13Rのほうが豊富でしかも安価なのですが、長時間使う入力機器は手触りが重要だと思ったからです。



早速購入し、帰宅後にセットアップしました。

【本体】
本体との接続はUSBケーブル1本で、バスパワーで動作します。緑色のバックライトがゲーマーっぽく、中二心をそそります(笑)
寸法は20cmx15cm程度。男性としては標準よりかなり小さい(中1の娘と同じくらい)僕の手がギリギリ全体をフォローできる程度なので、多くの人は問題なく使えるはずです。
キー構成は、3X5=15個のキー・親指で使用するサムパッド2個・同じく親指用スティックの8方向の、計25個のショートカットキーを割り当てられます。
更に1プロファイル(1組の設定)内には多次元的に8パターンのキーマップを切り替えできるので、理論上は25x8=200のキーを割り当てられることになります。

【ソフトウェア】
Synapseという専用ユーティリティソフトを使用してキーの割り当てを行います。
専用アカウントでログイン・常駐し、設定はクラウドに記憶されるので、外部でTartarusを使う際にも素早く対応可能です。キーマップをひとつ設定するのに結構手間がかかるので、この点はとても便利。
一方、ネットを経由してこのアカウントの取得を行うのが全て英語というところが、少々ややこしいのが欠点です。
注意としては、登録時に選択するこの製品のカテゴリは「Controller」ではなく「Keyboard & Keypad」だということ。これを間違えると正しいシリアル情報を入力しているのにエラーが出て進めなくなります。
また、一旦アカウント取得確認用URLメールが届くのですが、英語メッセージをよく読まずその認証を忘れて手続きを進めると、エラーが発生してパスワードリセットが必要になってしまうなどのトラブルにも遭遇しました。
保証も全て英語で代理店がかんでないことが不安ですが、Synapseそのものは日本語インターフェイスなので使用上の不具合はありません。

【設定】
どう設定するかを悩む人は多いと思いますので、ここで一つコツを。
イラスト制作前提で、ある程度キーボードショートカットを使ってきた人は、キーボードレイアウトに近づけて設定したほうがラクです。
下図は僕のレイアウト。CLIPSTUDIOもPhotoshopもほぼ同じプロファイルを使っています。(ショートカットの動作内容は割愛します)


体が覚えているせいか、左端にSihtやCtrl、その隣にキーボード配置に合わせてZやAなどを設定しておくと、思った以上にすんなり馴染めます。SpaceやAltはサムパッドにしておくと、複数キーを組み合わせたショートカットに使用しやすいですね。
なお、8方向キーは4方向でも(操作の問題で)入力ミスを起こしてしまうので、現状は2方向にとどめています。

それでは実際に作業してみた感想に入ります。
この一ヶ月間で、僕が行った作業は以下の三系統。

1)通常のイラスト制作
2)インターフェイスデザイン
3)コンシューマゲームのデータ制作

それぞれ使用ショートカットの種類と頻度がだいぶ違います。
1)はひたすらブラシと消しゴムの反復を行うため、ショートカットの種類は僅少。
2)は既存のデザインの色や配置を変えたりキャストの移動を行うような作業。描くというよりも材料を並べ替えてレイアウトを作るので、カット&ペーストや色の変更などが主体です。
3)はPhotoshopとIllustratorを行き来し、ブラシ・ペン・変形などかなり多くのコマンドを使用します。カーソルキー使用や文字入力など、キーボードでないと対応できない作業も含んでいます。


1)においては、ブラシと消しゴム、UndoとRedoなどを往復するだけなので、左手デバイスに設定したキーもすぐに慣れ、ほとんど違和感なく作業出来ました。
ブラシサイズ変更・拡大縮小・スクロールの三種に関してキーボードに手を伸ばすことがなくなるだけで、左手のストレスが大幅に軽減されると同時に、作業速度の向上を実感。
今では起動と同時にデバイスに左手を載せる癖がつきました。

2)の業務についてはPhotoshopなどのペイントソフトではなくレイアウト用のアプリを使用するため、キープロファイルを専用に設定しなおして使用。主に使うのは、コピペや移動ツールです。
プロファイル切替はアプリのexeファイル実行に関連付けられるので、アプリ起動と同時に自動的に切り替えさせることが可能。これによって左手はアプリの切り替えを意識しなくて済みます。
よく使用する、「スタイルのペースト」という、キーボードでは4つのキーを使わなければならないショートカットを左手デバイスの1キーに割当てることで、とんでもなく楽ちんになりました。
他にも、アプリ側でキーボードショートカットが設定されているコマンドや、そうでなくとも特定の手順でキーを押すことでダイレクトアクセスできるコマンドについてはすべて1キーに集約でき、一瞬でアクセスできるのはとても便利です。

反面、3)の作業については、アクション起動のファンクションキーをはじめ、Insert、delete、backspaceなどまで使用するので、ショートカットキーの数が絶対的に足りず困惑。文字入力など、左手デバイスでは対応できない作業まで入り乱れることを考えると、結局キーボードを使うことが最も早いと気づきました。
1プロファイルにつき多重に切り替えられる8つのキーマップを駆使すれば200のキー設定が可能だとは説明しましたが、現実的には8方向キーはナナメまで設定すると誤入力しやすくなるなどの制限や、8パターンものマップをいちいち切り替えるのは、操作上でも記憶上でもロスが多いので、イラスト制作においては21個しか使えないと思います。そしてその21個という数字はキーボードショートカットをふんだんに使う人にとっては意外なくらいに少ないのです。

つまり、左手デバイスは、飽くまで1プロファイル1キーマップ=21個でまかなえる数のショートカットを反復使用する制作だけに限り、それを超える数のショートカットを使うような作業については、おとなしくキーボードを使うのがベストでしょう。
この条件下であれば、イラスト制作における左手環境はかなり改善されるはずです。

同時に、当初の自分の手の大きさにフィットする点と同じくらい、どれだけ多くのキーが使用できるかという点も重要だと感じました。
そういう点では、Tartrusより5つキーの多いOrbweaverというRazerのモデルや、同じくキーが5個多いLogicoolのG13Rのほうが便利な可能性もあります。

また、左手デバイスはイラストやデザイン制作より、普段のPC作業へ与えるパフォーマンスのほうが大きいという面もあります。
エクスプローラ・ブラウザ・メディアプレーヤーなどにもキープロファイルを作成し、表示形式の変更やページの移動、動画の再生コントロールなどもすべて左手で行えるのは、実はイラスト制作以上に便利だったりします(笑)

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