昨日あった契約関係のお話です。お世話になった同業者諸氏も多いので、ご報告も含めて書いておきます。また、売買なども含め契約書面にサインする場面がある普通の人に読んでいただきたいです。(写真は特定されないように画像は加工していますが、察した人もここでは明確にするようなコメントは避けてください)
一昨年から登録契約の交渉が保留になっていたエージェントとの再交渉に行ってきました。
エージェントというのは、我々とクライアントの間に入って取引仲介を行ってくれる業者です。当然マージンは引かれますが、代わりに売り込みなどの営業活動してくれたり、個人レベルではなかなか引き受けられないような大きな案件を持ってきてくれたりするので、多くのイラストレーターが登録しています。
僕がこのエージェントと契約を保留していた経緯として、提示された契約書の内容が、かなり先方に都合よく作られていたということがあります。ざっくりいうと僕にとって「義務(リスク)が多く、権利が乏しい」という内容だったのです。
先方が発行した契約書なので先方に都合よく作られているのは当然ですが、個人が見落としがちなのが、それに対しては、こちらも交渉する権利があるということです。
よって、僕も加入しているイラストレーター団体の諸先輩にご指導いただいたりして、ここを変えて欲しい、ここは外して欲しい、と双方納得行く契約書面の作成交渉をを行っていたところ、一昨年末、先方からのぱったりと連絡が途絶えてしまい、これをもって交渉決裂と判断しました。本来であれば「では、なかったことに」の一報は必要なのですが、なんだかんだ言って世の中の法人の対個人扱いはいい加減なので、こちらも慣れたものだったのです。
しかし、その一年後の昨年末、「担当者が退職して有耶無耶になってしまっていた。申し訳ない」と先方からの連絡があり、再度の交渉を打診してきました。
そんなわけで、こちらも復習と交渉材料作成を新たに行って先方の会社に行ってきたというわけです。
前回の担当者は、自身も法務にそこまで明るくなかった印象だったので、互いに「うーん、どうしますか」といったやりとりだったのですが、今回の担当者は「いかにも」な貫禄を備えた方で、知識に裏付彼らたキビキビした話をするのを聞いて、すぐに法務畑が長い人だとわかりました。つまり手強い相手ということです。(笑)
こういう場合は、変に背伸びや知ったかぶりせず正直に臨むのが重要。
こちらは専門家ではないので、わからないところはわからない、なんでこういう記載になっているか、を、しつこいくらいに全部聞きます。書面は基本的に先方の雇った弁護士によって作成されており、言い回しは非常にややこしく、行政書類作成に疎いと意味のわからないことが多いのです。
そんな中、先方が何度も言っていたのが「他のイラストレータさんたちからは異議は聞かないんですけど…」という言葉。意図としては、多くのイラストレーターはこの契約に文句を言っていない、ということなのでしょうが、僕が考えるに、十中八九、その"他のイラストレーターさんたち"はこれをまともに読んでいないか、交渉を諦めているんだろう、と感じました。
僕は、自分で言うのもなんですが、国語というか日本語についてはそこそこ自信があります。それでも契約書というのは即座に意図を理解するのが難しい表現だらけです。そんな書面を、日常的に法務に取り組んでいるわけでもないイラストレーターがざっと目を通したところで正確に読み解けるとは思えないのです。今回はそのあたりについても正直に意見と異議を唱え、不要な言い回しを削除した上で、明快な表現で記述してもらえないでしょうか、ともお願いし、先方も「参考になります」と柔和にインプットして下さいました。結果、難解な言い回し故に互いの齟齬もあったことなども直接会って話をすることで概ね解決したので、ようやく契約への落とし所が見えてきたという印象です。
そこで皆さんにお伝えしたいのは、
・提示されてもすぐ締結するのではなく可能であれば一度持ち帰る
・一読して、自分なりに内容を解釈する
・対等になるよう交渉する
の三点を"原則"として意識しておくことです。特に、まだ取引経験が浅い若い人はぜひ憶えておいてください。
注意するのは、すべてに適用するのではなく"意識"です。
経験上、即座に捺印しないと進まない案件もあるし、あるいは全責任がこちらに負担となるような不利な条件であっても飲まざるをえない場面もありますから、そこで意固地になると、チャンスを逃す場合もあります。
一番まずいのは"読まないで締結"することです。この実績ができた瞬間、クライアントは次の契約でも「他のイラストレーターさん(お客さん)はOKでしたよ」あるいは「前回はOKでしたよね?」という前例を武器にし、日本人の「他の人(前の時)もOKなら大丈夫だろ」という性格を狙った交渉をしてくると思います。
すなわち、個人一人ひとりが三点の原則を意識して、必要な際はすぐに対処できる姿勢を見せないと、世の中が「個人への取引は契約書は提示したほうが有利である」との認識になり、最終的には「相手は従って当たり前」という風潮にもなりかねません。メリット・デメリットが小銭で間に合う約束ならともかく、過失や瑕疵が生活を脅かすような可能性を孕む場合は「自分は周りの人ではないし、周りの人が全部自分と同じではない、だから同じ約束はできない」という意思をブラさずに、この面倒くさい交渉に向き合ってもらいたいものです。
2015/01/15
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